老人ホームなび

法人ホームについて考える

老人ホームの存在意義と介護業界の問題について

2019-09-19

高齢化が進む社会では介護施設の需要が増える傾向にあります。日本も例外ではなく、様々な形態の施設が林立している状態です。そのような中で古くから高齢者向けの施設として知られている老人ホームが再評価されています。

高齢者に対する介護のあり方を正しく理解するためにも、老人ホームの特徴や介護業界の問題点について学びましょう。

老人ホームで行われる代表的な8月の行事

高齢者が共同で生活を営む場

ひと口に老人ホームと言ってもその運営内容は施設によって異なります。複数人の高齢者が居住空間を共有する所や、入居者ごとに独立した住居が割り当てられる所など様々です。日本における老人ホームの歴史は明治時代に設立された女性向けの養老院が最初とされています。

当初の老人ホームは文字通り、高齢者が居住するための施設でした。衣食住を提供する終の棲家の意味合いがありましたが、入居の基準は施設が独自に定めていた他、介護の質も施設ごとに大きく異なっていたのが実状です。

中には高齢者を放り込むだけで後は放置するという悪質な施設もありましたが、当時は高齢者介護に関する法規制が存在しなかったため、問題が棚上げの状態になっていた事実は否定できません。後に人口の増加や長寿化に伴う高齢者の増加によって、高齢者介護の基準を法律で決める必要に迫られました。

戦後には高齢者介護のあり方を具体的に決めた老人福祉法が制定され、結果として老人ホームも目的別に細分化されるに至ったのです。また、介護の具体的な基準が決められたことにより、悪質な施設も激減しました。

現在の老人ホームに対するイメージは老人福祉法が決まった後に作られた介護施設の運営内容が下地になっています。当時の老人ホームは健康や金銭に関する理由で家族と同居できない高齢者の受け皿としての意味合いがあり、出費の軽減やコミュニケーション能力の維持を目的とした共同生活が一般的な利用スタイルだったのです。

老人ホームの細分化は様々な高齢者への対応を可能にしている

初期の老人ホームは年齢以外の入居制限が無く、高齢者であれば誰でも利用できる施設でした。馴染み深い利点がある一方で、本当に手厚い介護を必要とする高齢者が満室であるために老人ホームを利用できないというケースが続発しました。

老人ホームの運営内容が細分化したのは介護を必要とする高齢者が安心して施設を利用できるようにする配慮が根底にあります。ひと口に高齢者と言っても体調や金銭の問題は人によって異なります。専門的な介護を必要としているのか、できるだけ安い施設を利用したいのかなど条件別に最適な所が変わってくるので施設の運営内容を十分に確認しなければいけません。

自分にもっとも向いている施設を選ぶのが快適に利用するための秘訣と言えます。老人ホームは介護の内容や費用によっていくつもの種類があります。中には体の具合が悪くなると利用ができなくなる施設もあるので事前の確認が不可欠です。

利用するための費用も施設ごとに大きく異なるので慎重に判断することを心がけます。

高齢者介護の現場に市場競争の原理を持ち込む問題

老人ホームは当初、国や自治体など行政が運営するのが普通でした。国民の福祉に直結する事柄なので行政が担当するのが当然とされていたためです。しかし、法律の改正によって民間企業が高齢者向けの介護施設を運営できるようになりました。

老人ホームも例外ではなかったものの、最初のうちはノウハウが構築されていなかったこともあり、病院など介護に精通している医療組織が運営するケースが多数でした。しかし、時代が進むにつれて医療や介護とはまったく関係の無い異業種が介護ビジネスに参入するようになったことから、介護の現場では大きな問題が生じたと言えます。

民間企業の参入によって市場競争の原理が介護の現場にも広まりました。市場競争の原理が働く現場ではサービスの質の向上を期待できるメリットがある一方、利益ばかりを求めがちになるデメリットもあります。また、コスト削減の名目で本当に必要な出費すら惜しむようになり、結果としてサービスの質が落ちてしまうケースも少なくありません。

高齢者介護の現場でも利益を最優先する風潮が出てくることがあります。こうなると高齢者に対する真摯な姿勢での介護は期待できません。利益の向上をを第一に考える一方で、高齢者の快適な暮らしの維持を軽視する施設も稀に存在します。

介護は本来、利益を得るための行為ではありません。ビジネスの現場は見返りがあるから投資を行うのが普通ですが、介護は相手からの見返りの有無に関係無く行うものです。他の業種で通用する市場原理を介護の現場にそのまま持ち込んでも、思い通りの利益を得るのは非常に困難と言えます。

その点を理解できない施設は利益重視にこだわり過ぎてしまい、コスト削減を理由に介護の質を下げてしまいます。そうなると高齢者にとって居心地の良い場所ではなくなり、遂には施設の評判も悪くなります。利益を求めるのは決して悪くはありませんが、老人ホームなどの高齢者施設は利用者が快適に暮らせる場所であることを忘れてはいけません。

介護業界の方向性と老人ホームの再評価

介護業界では高齢者施設の利用者に対する配慮を重視しています。特に入居型の施設ではプライバシー保護が大きな課題とされていることから、入居者ひとりずつに個室を用意する施設が多くなっています。個室は自分だけの居住空間なので、喧騒から離れて落ち着いたひと時を過ごしたい人には最適です。

しかし、個室は対人関係が希薄になる遠因であり、高齢者によっては認知症が進んでしまうおそれもあります。その点、老人ホームは基本的に複数の高齢者がひとつの居住スペースを共有する大部屋スタイルです。

常に他者と接する環境なので孤独にならず、賑やかな雰囲気の中で暮らすことができます。認知症が進みにくいとされているのも再評価されている理由のひとつです。

実際に利用する高齢者の意思を尊重するのが介護の基本

老人ホームをはじめとする高齢者施設はそれぞれ長所と短所があります。介護の内容や利用料金もそれぞれ異なるので、高齢者の体の具合や予算に合わせて選ぶことが快適に利用するための条件です。しかし、どのような施設であっても最終的に良し悪しを決めるのは実際に利用する高齢者であることを忘れてはいけません。

老人ホームはあくまでも高齢者が健やかに暮らすための施設なので、どのような環境であっても高齢者の意思を尊重して利用の可否を決めることが大切です。